震災後、為替相場が円安に向かう理由

日本の貿易黒字は、円高局面において価格調整圧力にさらされてきたが、アジア新興国の旺盛な需要などを背景に、大きく落ち込むことなく推移してきた。しかし、震災を受けて、ある程度の貿易黒字縮小は不可避と思われる。
円相場を見通す際、その強含みの理由として「米低金利の長期化観測」「本邦経常(貿易)黒字の蓄積」の2つを依拠することが多いが、震災による日本企業の活動抑制と地震以前からの商品高相場は、後者の理由を弱めるだろう。輸出の減少と輸入の増加。今後、日本はその両方による貿易黒字の縮小が想定される。
輸出に関しては、震災による工場等の生産設備の破損、物流インフラの途絶、電力使用の制限等を背景に抑制される公算が大きい。もちろん、生産設備に関しては他社や他工場で代替する動きも出始めているようであるし、物流インフラも復元しつつある。
だが、電力使用の制約は長引きそうであり、今年の夏冬はもちろん2012年夏まで続くとの見通しもある。大口電力需要者に対する総量規制も検討され始めており、電力使用の制約を背景とした供給ショック(供給能力の縮小)は避けられないだろう。
通常、企業の生産活動が縮小する場合、景気後退を受けた需要ショック(最終需要の縮小)のイメージが強いが、今回の震災はそうした需要ショックに加えて、供給ショックも重なる。経済指標面では鉱工業生産や輸出といった計数の下振れが予想され、直感的には「電力使用制限⇒生産縮小⇒輸出縮小」といった経路が想定される。
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輸入増も伴い後退する円高圧力
一方、輸入も震災を受けた内需減少で下振れが想定され、特に輸出品を生産する上で必要とされる素原材料等は減少が見込まれるが、それが輸出の減少を上回るとは考え難い。阪神淡路大震災の際、米国は当時の日本にとって最大の貿易相手国であったが、日本の対米輸入は1995年だけ急増し、翌年以降減少するということがあった(95年以前の5年間は平均4%Iiの伸び。対して95年は20%超の伸び)。
当時に比べれば日本貿易における米国の存在感はかなり落ちており単純な比較は難しいが、対米輸入で最大のシェアを占めるのは食料品(2011年2月時点、以下同)で、次いで医薬品等を含む化学製品などが大きいことからすると、震災後の対米輸入額は今回も膨らみやすそうな印象を受ける。
こうした点は対米輸入のみならず、対世界輸入にも言えることで、商品別シェアは原油や液化天然ガス(LNG)を含む鉱物性燃料が34.3%と飛び抜けて大きく、次いで電気製品、化学製品、原料別製品、原料品などが続く。震災以前からの商品高相場は継続しており、輸入額の3割超を占める鉱物性燃料は復興需要もあいまって膨らむと考えて差し支えないだろう。計画停電を回避するための火力発電シフトに絡み、LNG海外調達の拡大等も報じられており、こうした影響も今後出てくるはずである。その他では、医薬品を含む化学製品や商品高相場の影響を被りそうな素材関連(原料や原料別製品)も、やはり増加が予想される。
弊行の見通しでは、円相場を見通すにあたり「誰が円を売るのか」という視点が重要で、慢性的な「円の売り手不足」が円の強含みを招くと見てきた。世界最大の対外債権国としての日本の地位が揺るがない以上、「円の買い手>円の売り手」の構図が早晩大きく変わることはなく、急激な円安は難しいだろう。だが、今後1年を見通した時に、貿易黒字縮小の結果として日本の実需勢に起因する円高圧力が減退する場面はあろう。
冒頭、円相場の強含みを考える理由は「米低金利の長期化観測」と「本邦経常(貿易)黒字の蓄積」の2つと述べたが、足許では金融政策の正常化を目指す米連邦準備理事会(FRB)と非常時対応を迫られる日銀のコントラストが鮮明になっており、前者の理由も弱まりつつある。
原発事故のような不測の事態を背景にドル/円相場が再び80円を割り込む可能性は払拭できないものの、ドル/円相場の上振れリスクは増しつつあるのではないか。
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